「ストロベリーキャンドル」

■ ストロベリーキャンドルの基本情報
- 学名:Trifolium incarnatum
- 和名:ベニバナツメクサ(紅花詰草)
- 英名:Strawberry Candle, Crimson Clover
- 科名:マメ科
- 原産地:ヨーロッパ
- 開花時期:4月~5月
- 草丈:20〜50cmほど
- 用途:花壇、グランドカバー、緑肥(農地改良)
ストロベリーキャンドルについて

■ 特徴
- 名前のとおり、イチゴのような赤いキャンドル型の花穂が特徴的。
- 花は穂状に密集し、ふわっとした柔らかい質感。
- 葉はクローバーのような形(三つ葉)で、全体としてとてもナチュラルでかわいらしい印象。
- 手間が少なく、丈夫で育てやすい一年草。
- 緑肥や蜜源植物としても利用され、ミツバチにも好まれる。
花言葉:「素朴なかわいらしさ」

◆ 花言葉の意味と由来
- ストロベリーキャンドルは、派手さはないものの、赤くふわっとした姿がどこか懐かしく、素朴な印象を与えます。
- クローバーの仲間でありながら、その独特な花姿が「かわいらしい」と感じられ、多くの人に親しまれてきました。
- そのため、「素朴なかわいらしさ」という花言葉が付けられました。
また、「胸に灯る想い」「きらめく愛」などのロマンチックな花言葉もあり、贈り物にもぴったりです。
「ストロベリーキャンドルの咲く丘で」

春の終わり、町はずれの小さな丘に赤い花が咲きはじめる。ふわりとした赤い花穂が、風にそよいでまるでキャンドルの炎のように揺れていた。
この花を「ストロベリーキャンドル」と教えてくれたのは、祖母だった。
「この花はね、素朴なかわいらしさっていう花言葉があるのよ」
祖母はいつもその花の前で微笑んだ。大きくもなければ、華やかでもない。でも、そこには不思議なあたたかさがあった。子どものころの私は、それがなんとなく好きだった。
中学生になり、私はあまり丘に行かなくなった。スマホや部活、友達との時間が増えて、祖母との時間は少しずつ減っていった。それでも祖母は何も言わず、ただ笑っていた。

春、祖母が静かに旅立った。まるで季節の風に乗るように、穏やかに。
それからしばらく、心にぽっかりと穴があいたような日々が続いた。ふと気がつくと、私は祖母と通ったあの丘に向かっていた。
風が吹き抜ける丘の上には、あの日と同じようにストロベリーキャンドルが咲いていた。少しだけ涙が出た。でも、その赤い花たちは、まるで「おかえり」と言ってくれているようだった。
「おばあちゃん、今年もきれいに咲いてるね」
声に出すと、誰もいないはずなのに返事が聞こえたような気がした。風が頬をなでて、花がふわりと揺れる。
その時、不意に幼い頃のことを思い出した。

――あなたは派手じゃなくてもいいのよ。優しくて、まっすぐで、あなたらしくいればいい。
祖母がよく言っていた言葉だった。
私は、ずっと“目立たなきゃ”“強くならなきゃ”と思っていた。けれど祖母の言葉と、今目の前に咲く花が重なったとき、私ははじめて“そのままでいい”という意味がわかった気がした。
花は、何も語らず、ただそこに咲いているだけ。でも、確かに誰かの心を温める力がある。そう思ったら、自分の中のなにかが、ふわっとやわらかくなった。
それから私は、毎年春になるとこの丘に足を運ぶようになった。大学に入ってからも、社会人になっても。ある年には、好きな人を連れてきて、やがて家族になった。

子どもができて、彼女が「この赤いお花なあに?」と聞いてきたとき、私は笑って答えた。
「これはね、ストロベリーキャンドルっていうのよ。“素朴なかわいらしさ”っていう花言葉があるの」
娘は不思議そうな顔をしながら、赤い花に指を伸ばす。そして、「ふわふわしてて、かわいいね」と言った。
私は、少し泣きそうになりながら「そうだね」とだけ答えた。
風が吹く。赤い花が、炎のようにそよぐ。
きっと祖母も、どこかで見ている。やさしい目で、あの笑顔で。
ストロベリーキャンドルの咲く丘には、静かで温かい時間が流れていた。