「スイカズラ」

基本情報
- 学名:Lonicera japonica
- 英名:Japanese honeysuckle
- 分類:スイカズラ科 スイカズラ属
- 原産地:日本、中国、朝鮮半島
- 開花時期:5月〜7月頃
- 花色:白、黄色(白から黄色へ変化)
- 別名:金銀花(きんぎんか)
- 香り:甘くやさしい香りがする
スイカズラについて

特徴
- ツル性植物:木やフェンスなどに絡みつくように伸び、野山でもよく見かける生命力の強い植物です。
- 花の色が変わる:咲き始めは白、やがて黄色に変わっていく花の様子から、**「金銀花」**という別名がついています。
- 蜜が吸える:花の根元に蜜があり、子どもたちが花を摘んで吸って遊ぶことから「吸い葛(すいかずら)」の名がつきました。
- 冬も枯れにくい:常緑性で、冬でも葉を落とさずしぶとく残ることが多いです。
花言葉:「献身的な愛」

「献身的な愛(devoted love)」という花言葉は、スイカズラの以下のような特徴から生まれたと考えられます:
1. 絡みつくような成長スタイル
スイカズラは支えとなるものにしっかりと絡みつき、絶えず寄り添いながら成長します。その姿は、一途に誰かを支え続ける姿に重なります。
2. 花の色の変化
白から黄色へと変化していく花の色は、時とともに深まっていく想いを象徴します。変化してもなお美しく咲き続ける姿が、移ろいながらも変わらぬ愛情を表しているともいえます。
3. 目立たぬけれど、香りと蜜で人を惹きつける
派手ではないものの、花には甘い香りと蜜があり、昆虫や人々を引き寄せます。見返りを求めず、ただ誰かの心に寄り添うような、静かで深い愛がそこに感じられるのです。
◆ 関連する他の花言葉
- 愛の絆
- 友愛
- 忠実
「金銀の蔓(つる)」

陽の落ちた裏庭に、静かに風が通り抜けた。そこにひっそりと咲くスイカズラの花は、薄闇の中でほのかに甘い香りを漂わせている。
柚季は祖母の形見の木椅子に腰を下ろし、膝に毛布をかけた。庭の片隅には、かつて祖母と一緒に植えたスイカズラが、今もフェンスに絡みついている。
「おばあちゃん、咲いてるよ……ちゃんと、今年も」
彼女の声は風に溶けるように小さかった。けれど、誰かに届けと願うように真っ直ぐだった。

幼いころ、柚季はよく祖母の家で過ごした。友達とうまく話せなかった彼女は、学校が終わるとすぐに祖母の庭に逃げ込み、スイカズラの蜜を吸っては笑っていた。
「柚季はね、ちょっと人より静かだけど、その分、根っこが深いのよ。誰かを想うと、ずーっと、その人のそばにいるの。まるでスイカズラみたいに」
そう言って、祖母は優しく頭を撫でてくれた。
あのころは、言葉の意味がよくわからなかった。ただ、自分がスイカズラのようだと言われるのが、少しだけ誇らしかった。
祖母が病に倒れたのは、柚季が高校生のときだった。

病室で祖母は、やせ細った手で柚季の手を握り、こんなことを言った。
「愛するって、ね……相手が見ていなくても、そばにいることなのよ。見返りなんていらない。ただ、その人の心を支えてあげたいって思うだけで、もう充分なの」
柚季は泣きながら、ただ頷いた。祖母の言葉は、スイカズラの香りと一緒に、胸に深くしみこんだ。
それからというもの、柚季は誰かの「支え」になることを自然に選ぶようになった。
人前に出るのは苦手だったが、クラスでは忘れ物をそっと届けたり、泣いている友達にそばで黙って寄り添ったり。目立たぬけれど、気づけば誰かの隣にいた。

好きになった人もいた。大学の図書館で、背中を丸めて勉強していた彼を、彼女はそっと見守っていた。
恋を打ち明けることはなかった。けれど彼が試験に合格したとき、遠くから小さく拍手をした。彼に届かなくてもよかった。ただ、想いは咲いていれば、それでいいと、そう思えた。
今、スイカズラの花は、白から黄色へとその姿を変えていく。
「変わっても、咲き続けるんだね……」
柚季は花に向かって微笑む。祖母が言った「献身的な愛」は、誰かに強く伝えなくても、日々の中にそっと根づいていくものだと、ようやくわかった気がした。
夜風に乗って、甘くやさしい香りがまたふわりと流れる。
それはまるで、遠くで見守ってくれている祖母の息遣いのようだった。