9月24日、10月30日の誕生花「ハギ」

「ハギ」

基本情報

  • 分類:マメ科ハギ属(Lespedeza)
  • 学名Lespedeza thunbergii
  • 原産地:日本(園芸起源と推定される)
  • 草丈:0.5〜2mほど
  • 花期:7月〜10月(秋の七草のひとつ)
  • 花色:紅紫色、白色など
  • 特徴:低木または多年草。枝先に蝶形の花を多数つける。秋風に揺れる姿が古くから歌に詠まれ、万葉集でも最も多く登場する植物。

ハギについて

特徴

  1. しなやかな枝
    細く長い枝が弧を描くようにしだれ、風にそよぐ姿が印象的。枝は折れにくく、しなやかに揺れる。
  2. 蝶のような花
    小さな蝶が群れ飛ぶように見える花を房状につける。華やかではないが、可憐で風情がある。
  3. 古典との関わり
    秋を代表する花として、『万葉集』『古今和歌集』などに数多く詠まれる。「秋=萩」と連想されるほど、日本文化に根付いた植物。

花言葉:「柔軟な精神」

由来

  • しなやかな枝ぶり
    ハギの枝は細く長く、風に吹かれると大きくしなっても折れない。強風や雨にも耐えつつ、美しく揺れる姿が「柔軟さ」の象徴となった。
  • 困難を受け入れる姿
    他の花が立ち上がって咲くのに対し、萩は地面近くに枝を垂らすことも多い。まるで「状況に合わせて姿を変える」ようで、人間の精神に例えられた。
  • 文化的イメージ
    古歌でしばしば「儚さ」「移ろい」とともに「耐え忍ぶ優しさ」を表す花として詠まれてきた。柔軟に時を受け入れる心が「柔軟な精神」という花言葉に結びついている。

「萩の揺れる庭で」

夏の名残りが空気に混じりながらも、風の匂いは確かに秋を知らせていた。祖母の家の庭先で、萩の枝がしなやかに弧を描き、淡い紅紫の花を揺らしている。

 「この枝はね、風に吹かれても折れないんだよ」
 小さい頃、祖母がそう言って微笑んでいた光景が、ふいに甦る。

 私はいま、久しぶりにその庭に立っていた。仕事での失敗をきっかけに自分を追い詰め、何もかもが硬直してしまったように感じていた。東京で過ごす日々は、立ち止まることを許してはくれない。柔軟に対応できない自分を責め、逃げるようにこの古い家に帰ってきたのだった。

 風が吹き、萩の枝が大きく揺れる。だが、どれほどしなっても折れることはない。しなやかさの中に秘められた強さ。それは硬さとも頑固さとも違う、別の種類の強靭さだった。

 縁側に腰を下ろすと、幼なじみの透が庭先から声をかけてきた。
 「帰ってたんだな。仕事、大変だって聞いたけど」
 私は苦笑いを返すしかなかった。言い訳をする気にもなれず、ただ目の前の萩を見つめる。

 透はしばらく黙って私と同じ方向を眺め、それからぽつりと呟いた。
 「昔、祖母さんが言ってたのを覚えてるか? 『萩はな、強さを見せつけたりはしない。でも、風に折れないのは本当に強い証拠なんだ』って」

 私は頷いた。確かに覚えている。祖母の声は優しいのに、心の奥に響いて離れなかった。

 「俺さ」透が少し照れたように続ける。「硬く構えて、無理に踏ん張るのが強さだと思ってたんだ。でも違った。萩みたいに、揺れても折れずに戻れるのが、本当の意味での強さなんじゃないかって」

 その言葉に、胸の奥の氷が少しずつ溶けていくのを感じた。私はいつも「完璧でいなければならない」と思い込んでいた。折れてはいけない、揺らいではいけないと自分を縛りつけていたのだ。けれど、揺れることは決して弱さではない。受け入れながら立ち続けること、それが柔らかくも強い精神なのだ。

 夕暮れが近づき、萩の影が長く伸びていく。透と並んで庭を見つめながら、私は静かに息をついた。
 「……少し、戻れそうな気がする」
 「いいじゃん。ゆっくりでいい」

 その瞬間、ひときわ強い風が庭を駆け抜け、萩の枝が大きく波打った。だがやはり折れることはない。揺れながらも、確かにそこに立ち続けていた。

 私は心の中で祖母に語りかけた。
 ――ありがとう。私も、萩のように生きていくよ。

 秋の風は少し冷たく、けれどどこまでも優しかった。