「ハゲイトウ」

基本情報
- 和名:ハゲイトウ(葉鶏頭)
- 学名:Amaranthus tricolor
- 科名:ヒユ科(Amaranthaceae)
- 属名:アマランサス属(Amaranthus)
- 原産地:熱帯アジア(インド、東南アジアなど)
- 草丈:30〜100cmほど
- 開花期:8月〜10月(観賞されるのは主に葉の色)
ハゲイトウについて

特徴
- 葉の美しさが主役
ハゲイトウは花よりも葉が観賞対象になります。赤・黄・緑など鮮やかな色が混じり合い、まるで燃える炎のように見えるのが特徴です。 - 「葉鶏頭」の由来
同じヒユ科であるケイトウ(鶏頭)に似た鮮やかさを、花ではなく葉で見せることから「葉鶏頭」と呼ばれます。 - 丈夫で育てやすい
暑さや乾燥に強く、夏花壇や鑑賞用に重宝されます。草丈が高い種類から矮性の品種まで多様。 - 食用・薬用の一面も
アマランサス属の仲間は、穀物として食用にされる「スーパーフード」のアマランサス(雑穀)を含みます。葉も食用になる種類があります。
花言葉:「不老不死」

由来
ハゲイトウを含むアマランサス属は、**古代から「枯れない花」**として伝説的に語られてきました。
- ギリシャ神話との関わり
「アマランサス(Amaranthus)」という属名は、ギリシャ語の amarantos(しおれない、色褪せない)に由来します。
→ つまり「永遠に枯れない花」と考えられた。 - 葉の色が長く続く
花は目立たないものの、鮮烈な葉色は夏から秋まで長く保たれ、まるで不滅の炎のように見えます。
→ そこから「不老不死」という象徴的な意味を帯びた。 - 生命力の強さ
暑さや乾燥にも負けず、強い日差しの中でも葉色を鮮やかに保ち続ける姿が、永遠性や生命力の象徴と結びつけられた。
「枯れない炎」

夏の終わり、商店街のはずれにある古い花屋に立ち寄った。扉を開けると、乾いた風に混じって、どこか鉄のような匂いが漂ってきた。
店の奥に並んだ鉢の中で、ひときわ目を引いたのは赤と黄、そして深い緑が入り混じった葉。まるで燃え盛る炎をそのまま閉じ込めたような姿だった。
「それはハゲイトウだよ」
声をかけてきたのは、腰の曲がった花屋の老人だった。白髪の下からのぞく瞳は、不思議な光を宿している。

「ハゲイトウ……?」
「葉鶏頭とも呼ばれる。鶏頭に似てるが、花じゃなくて葉を観賞するんだ。色が長く続くのが特徴でな。古くから“不老不死”の象徴とされてきた」
不老不死。あまりにも大げさで、どこかおとぎ話めいている。だが、その葉の鮮やかさは確かに尋常ではなかった。燃えるような赤は、秋風にも色あせる気配を見せない。
私は一鉢を手に取った。老人は少し笑って、「大事にしなさいよ」とだけ言った。
部屋に持ち帰ったハゲイトウは、窓際に置くとさらに存在感を増した。朝日を浴びると黄金の炎のように輝き、夕暮れには深紅の余韻を残した。
不思議なことに、それを眺めていると、時間の流れが緩やかになる気がした。

私は、つい亡くなった祖母のことを思い出した。病床で「生きることは、燃えることと同じだよ」と笑っていた顔。祖母の枕元には、いつも色鮮やかな花が飾られていた。だが最後の日だけは、花瓶の中は空っぽだった。
――もしあのとき、このハゲイトウがあれば。
そんな考えが胸をよぎり、私は自分で可笑しくなった。花一つで人の命を永らえさせることなどできるはずもない。
それから数週間。秋風が冷たさを増しても、ハゲイトウの葉はなお鮮烈に燃えていた。近所の木々が色褪せ、散り落ちても、窓辺の鉢だけは夏の熱を抱えたままだ。

ある晩、私は夢を見た。祖母が縁側に座り、ハゲイトウを指差して言う。
「これはね、命の形そのものなんだよ。枯れない花なんてないけれど、人が誰かを思う心は、枯れない。だから“不老不死”なんだよ」
夢から覚めると、胸の奥に温かい火がともっていた。祖母の声が確かに残っている。
冬が来て、ハゲイトウの葉もようやく色を失った。だが私は不思議と寂しくなかった。あの炎は、もう外にはなくても、私の中で燃え続けているからだ。
“枯れない花”という伝説は、きっと誇張だろう。だが、確かに枯れないものがある。
それは、誰かを思い続ける心。過ぎ去った命を抱きしめる記憶。そしてその記憶を未来へと渡そうとする意志。
窓辺の鉢は、いまはただ静かな影となっている。けれど、私の胸の奥では、あの日見た燃える葉の色が絶えることなく揺らめき続けていた。