11月14日の誕生花「皇帝ダリア」

「皇帝ダリア」

基本情報

  • 学名:Dahlia imperialis
  • 科名:キク科
  • 属名:ダリア属
  • 原産地:メキシコ・中南米の高地
  • 開花期:11月下旬~12月上旬
  • 草丈:3〜5mほどにもなる大型多年草
  • 別名:「木立ダリア」「コダチダリア」

皇帝ダリアについて

特徴

  • 非常に背が高く、竹のようにまっすぐ伸びる茎を持つ。
  • 晩秋に咲く珍しい花で、寒さが増す時期に淡いピンクの大輪が空高く咲く。
  • 花径は10〜15cmほどと大きく、透けるような薄い花びらが特徴。
  • 風で揺れる繊細な姿を持つが、植物自体は力強く丈夫。
  • 日照を好み、霜に弱い性質があるため、温暖地でよく育つ。
  • 高い位置に花が咲くため、見上げるように鑑賞する “天空の花”。

花言葉:「乙女の真心」

由来

  • 薄く透明感のある花びらが、どこか儚く純真な印象を与えることから「乙女」を連想させる。
  • 晩秋の冷たい空気の中でも、天に向かって凛と咲く姿が、真っ直ぐでけがれのない“真心”を象徴している。
  • 高い位置で静かに咲く性質が、“密やかな純粋さ”“秘めた優しさ”を感じさせたことに由来するとされる。

「空の乙女が咲くころ」

晩秋の夕暮れ、里山の風は少しだけ冷たさを増していた。澄んだ空気の中、澪(みお)は庭の隅に立つ一本の皇帝ダリアを見上げていた。薄桃色の大輪が、高い空を背景に静かに揺れている。まるで風に耳を澄ませている乙女のように。

 「今年も、咲いたんだね」

 独りごとのように呟く声は、庭木の影に吸い込まれていった。

 皇帝ダリアは、澪の母が最後に植えた花だった。母が病に伏してからの日々、澪は何度もその前に立ち、空に手を伸ばす花に願いをかけてきた。けれど、その願いを誰に伝えたくても、もう伝える相手はいない。

 ――お母さん、聞こえてる?

 淡く震える花びらが、風にふわりと揺れた。澪はそのたび胸が締めつけられるのを感じた。
 花はいつも高い位置で咲く。触れたくても指先が届かない。
 その距離感が、まるで母の不在を思わせて仕方がなかった。

 ある日、学校の帰り道で、澪は近所に住む年配の園芸家・山本さんと出会った。腰をかがめ、落ち葉を掃く手を止めて、優しく声をかけてくる。

 「今年の皇帝ダリア、よく咲いたねぇ」

 「……はい。きっと、母が好きだったから」

 澪が言うと、山本さんはふっと目を細めた。

 「この花ね、薄い花びらのくせに、寒さの中でもまっすぐ上に咲くんだよ。乙女みたいに儚いのに、芯は強い。だから“乙女の真心”なんて花言葉がついたんだ」

 「……真心」

 「うん。高いところでそっと咲くから、派手じゃない。でも、ちゃんと見上げる人には気づいてもらえる。まるで“私、ここにいるよ”って囁いてるみたいだろう?」

 澪はその言葉に、胸の奥を静かに撫でられたような気がした。
 “ここにいるよ”
 それは、あの日、母が最後に言った言葉でもあった。

 その夜、澪は布団の中で、今日見た皇帝ダリアの姿を思い浮かべていた。薄い花びら。たおやかな色。けれど、冷たい風に折れもせず、ただ天へ向かって咲く強さ。

 ――お母さんの心も、きっとこうだったんだ。

 弱さも、寂しさも、すべて抱えたうえで、それでもまっすぐに澪を愛し続けた母。
 彼女の“真心”は、見上げればいつも空のどこかにあったのだと、ようやく思えた。

 翌朝、澪は庭に出た。朝日が差し込み、皇帝ダリアの花びらが淡く透き通って光っている。昨日よりも少しだけ大きく見えた。

 澪はそっと目を閉じ、花に向かって小さく呟いた。

 「……お母さん、今年の花もきれいだよ。ちゃんと、見てるよ」

 風がふっと吹き、花が揺れた。真心に触れたような、あたたかい揺れだった。

 その瞬間、澪は気づいた。
 触れられなくてもいい。届かなくてもいい。
 大切な想いは、いつも少し高いところから自分を見守っているのだと。

 皇帝ダリアが揺れる空の下、澪は小さな笑みを零した。
 その表情は、まるで母が残した“乙女の真心”を、静かに受け継いだかのようだった。

9月3日、23日、27日の誕生花「コスモス」

「コスモス」

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基本情報

  • 学名Cosmos bipinnatus
  • 科名:キク科
  • 属名:コスモス属
  • 原産地:メキシコ
  • 開花期:6月~11月(特に秋に盛んに咲くことから「秋桜(あきざくら)」の名がある)
  • 花色:ピンク、白、赤、黄、オレンジ、チョコレート色など
  • 草丈:50cm~2mほど
  • 別名:「秋桜(あきざくら)」「コスモス」

コスモスについて

Etienne GONTIERによるPixabayからの画像

特徴

  1. 繊細で優美な姿
    細く切れ込みの入った糸のような葉と、風にそよぐ可憐な花姿が特徴。群生すると一面が華やかな景観になる。
  2. 丈夫で育てやすい
    やせ地でもよく育ち、日当たりと風通しがよければ花をたくさん咲かせる。
  3. 秋を代表する花
    日本では明治時代に伝来。季語としても定着し、秋の風物詩として親しまれている。
  4. 名前の由来
    学名 Cosmos はギリシャ語の「kosmos(秩序・調和・美しい飾り)」から。規則正しく花びらが並ぶ様子が由来となっている。

花言葉:「乙女の真心」

manseok KimによるPixabayからの画像

由来

コスモスの代表的な花言葉のひとつが 「乙女の真心」 です。
この由来には以下のような背景があります。

  1. 花姿の純真さ
    ピンクや白のやわらかな花びらが整然と並び、清楚で可憐な印象を与える。その素直で飾らない美しさが「純粋な心=乙女の真心」に重ねられた。
  2. 風に揺れる優しさ
    細い茎に咲く花が風に揺れる姿は、控えめでありながらもまっすぐな気持ちを表現していると考えられた。
  3. 秩序正しい花の形
    花弁が均整よく並ぶことから「誠実さ」「真心」を象徴するものとされた。

「乙女の真心」

夏の終わり、風に揺れるコスモスが丘一面を彩っていた。淡いピンクと白の花が、まるで波のように連なり、空の青さと溶け合うように広がっている。

 綾はその中に立ち尽くしていた。手には、小さな封筒。そこにはまだ渡せていない手紙が入っている。相手は同級生の翔太。もうすぐ彼は遠くの町へ引っ越してしまう。

 「言わなきゃ、後悔する」
 心の中で何度もつぶやきながら、綾は足元の花々を見つめた。風に揺れるコスモスの姿は、まるで自分の心のようだ。細い茎は不安定で頼りなさげなのに、それでもしっかりと空に向かって花を咲かせている。

 ――この花に背中を押されている気がする。

 翔太と初めて会ったのは、小学二年のころだった。転校してきた彼に、綾は筆箱を貸してあげた。それだけのささいなことがきっかけで、ずっと一緒に過ごすようになった。勉強が苦手な彼に勉強を教えたり、彼の得意なサッカーを一緒に練習したり。笑い合う時間は、当たり前の日常になっていた。

 けれど、その日常は終わろうとしている。
 翔太の父親の仕事の都合で、来週にはもう遠くへ行ってしまうのだ。

 「……綾」
 背後から名前を呼ばれ、胸が跳ねた。振り向くと、翔太が少し息を切らして立っていた。

 「探したよ。ここにいると思った」
 「ごめん、急に呼び出して……」

 言葉が続かない。封筒を握りしめる手が震える。けれど、目の前のコスモスが風にそよぎ、静かに語りかけてくるようだった。

 ――花姿の純真さ。
 その素直さは、あなたの気持ちのままに。

 綾は深呼吸をした。
 「これ……手紙書いたの。読んでほしい」
 差し出した封筒を翔太が受け取る。その瞬間、コスモスの花びらが一枚、ふわりと舞い落ちた。

 「ありがとう。……俺も、話したいことがあったんだ」
 翔太の声が少し震えていた。彼もまた、この時を待っていたのかもしれない。

 二人はしばらく無言のまま、丘の上に並んで立ち尽くした。風に揺れる花々が、控えめに、けれど確かに励ましてくれる。

 ――風に揺れる優しさ。
 弱さを隠さなくてもいい。揺れても、心はまっすぐ届くから。

 綾は視線を空に向けた。翔太も同じように空を見上げていた。そこには、どこまでも高く澄んだ青が広がっている。

 「離れても、きっと大丈夫だよな」
 翔太がぽつりと言う。
 綾はうなずいた。涙がにじみそうになるのをこらえて。

 ――秩序正しい花の形。
 均整のとれた姿は、誠実さと真心のしるし。

 この花言葉が、まさに今の二人に重なっている気がした。

 翔太は封筒を胸に当て、「大事にする」と静かに言った。
 その言葉を聞いた瞬間、綾の心の奥で固く結んでいた糸がほどけていく。

 風にそよぐコスモスの花たちは、まるで「乙女の真心」という花言葉を具現化したかのように、純粋でまっすぐな思いを伝えていた。

 やがて丘を下る二人の背中を、花々はやさしく揺れながら見送っていた。