8月29日の誕生花「サルスベリ」

「サルスベリ」

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基本情報

  • 分類:ミソハギ科 サルスベリ属(Lagerstroemia)
  • 学名Lagerstroemia indica
  • 原産地:中国南部
  • 和名の由来:幹の表皮がつるつるしており、サルも滑って登れないほどであることから「サルスベリ」と呼ばれる。
  • 開花期:7月~9月(地域によっては10月頃まで)
  • 花色:ピンク、紅、白、紫など
  • 別名:「百日紅(ヒャクジツコウ)」
    → 花期が非常に長く、約100日間咲き続けることから。

サルスベリについて

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特徴

  1. 幹肌がつるつる
    • 古い樹皮がはがれ落ち、新しい樹皮が現れるため、独特の滑らかな質感になる。
    • この特徴は庭木としても珍重される。
  2. 花が長期間楽しめる
    • 夏から秋まで次々と花を咲かせ、暑さにも強い。
    • 小さな花が房状にまとまって咲き、ふわふわした花弁が特徴的。
  3. 成長と姿
    • 樹高は3~10m程度。庭木、公園樹、街路樹としてよく見られる。
    • 剪定に強く、好みに応じて樹形を楽しめる。

花言葉:「愛嬌」

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由来

サルスベリの代表的な花言葉のひとつが「愛嬌」です。
この花言葉が生まれた背景には次のような理由があります。

  1. ふわふわとした可憐な花姿
    • 花びらが縮れたようにひらひらと広がり、明るくにぎやかな印象を与える。
    • その愛らしい姿が「愛嬌のある人」にたとえられた。
  2. 次々と咲き続ける元気さ
    • 長い夏の間、絶えず花を咲かせる生命力。
    • まるでいつも笑顔を絶やさず、周囲を明るくする人のように感じられた。
  3. 身近な親しみやすさ
    • 公園や庭先でよく見かけ、生活に彩りを添える存在。
    • その親しみやすさが「愛嬌」という言葉につながった。

「サルスベリの下で」

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小学校の通学路の途中に、一本のサルスベリが立っていた。夏の盛りになると、ふわふわと縮れた花びらを揺らしながら、まるで子どもたちを見守るように咲き誇る。
 明るいピンクの花は、汗だくの帰り道にも不思議と涼しさを運んできてくれる。

 ――あの木の下に立つと、自然と笑顔になれるんだよな。

 小学五年の直哉は、心の中でそうつぶやいた。

 彼には最近、気になるクラスメイトがいた。いつも元気に笑っている陽菜だ。テストで失敗しても、ドッジボールで負けても、彼女は「ま、いっか!」と笑い飛ばす。その笑顔に、どれだけ救われてきただろう。


 けれど、ある日。学校で陽菜が泣いているのを直哉は見てしまった。放課後の教室で、一人、机に突っ伏していたのだ。

「どうしたの?」
 思わず声をかけると、陽菜は慌てて涙を拭い、ぎこちなく笑った。
「……なんでもないよ」
 そう言った笑顔は、いつもの快活さとは違い、どこか無理をしているように見えた。

 直哉はそれ以上何も言えなかった。

***

 数日後、夏休みが始まった。
 直哉は例年通り、祖母の家へ泊まりに行った。庭先には大きなサルスベリの木があり、百日紅の名のとおり、長い間咲き続けている。
 祖母は縁側に腰かけ、咲き乱れる花を見上げながら言った。
「この花はね、昔から“愛嬌”って花言葉があるんだよ」

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「愛嬌?」と直哉が首をかしげると、祖母は笑って続ける。
「ふわふわして、明るくて、見る人を和ませる。ずっと咲き続けて元気をくれる。だから人々は、サルスベリを“愛嬌の花”だと思ったんだろうね」

 その言葉を聞いた瞬間、直哉の脳裏に陽菜の笑顔が浮かんだ。
 いつも周りを明るくしてくれる彼女は、まさにサルスベリのような存在だった。けれど、無理をして笑っていたあの日の姿も思い出される。

 ――本当は、元気じゃないときだってあるんだ。

 直哉は気づいた。花がずっと咲き続けているように見えても、枝の奥では力をため、時に休むこともある。人間だって同じだ。

***

 夏休み明け、再び学校が始まった。
 直哉は、例の通学路のサルスベリの下で立ち止まった。まだ暑い九月、木は相変わらず花を咲かせていた。
 教室に入ると、陽菜が元気に笑っていた。でも、直哉はもう、その笑顔の奥に隠された気持ちを見逃さない。

「陽菜、もしつらいことあったら、オレに言えよ」
 そう口にすると、彼女は一瞬目を丸くした後、ふっと柔らかく笑った。
「……うん。ありがと」

 その笑顔は、無理をしたものではなく、どこか安心したように見えた。

 窓の外では、サルスベリの花びらがひらひらと舞っていた。まるで二人を祝福するかのように。

 直哉は思った。
 ――“愛嬌”って、ただ明るく振る舞うことじゃない。人の心を軽くする力のことなんだ。

 サルスベリの花言葉の意味が、少しだけ胸に刻まれた気がした。

5月26日の誕生花「サンダーソニア」

「サンダーソニア」

学名: Sandersonia aurantiaca
和名 :サンダーソニア
英名: Christmas bell, Chinese lantern lily
科名 :イヌサフラン科(旧分類ではユリ科)
原産地 :南アフリカ
開花時期 :6月~7月
草丈 :約30~60cm

サンダーソニアについて

特徴

花の色 :オレンジ(稀に黄色)
花の形 :ランタン状の釣り鐘型の花
栽培難易度 :やや難しい(湿気・寒さに弱い)
ベル型の花が可愛らしい:ぷっくりとしたランタンのような形状の花をつけるため、非常に可憐でユニーク。
切り花に人気:花持ちが良く、フラワーアレンジメントやブーケに好まれる。
クリスマスベルという英名は、花の形と開花期(南半球の夏=クリスマスシーズン)にちなんでいる。


花言葉:「愛嬌」

サンダーソニアの花言葉「愛嬌(あいきょう)」は、その愛らしい姿に由来します。

  • 小さなベルのような花が風に揺れる様子が、まるで人懐っこく微笑みかけているように見えることから、「愛嬌がある」「親しみやすい」といった印象を与えます。
  • また、オレンジ色の明るく元気な花色も、人の心を明るくするという意味で「愛嬌」につながります。

他にも「祈り」「祝福」「可憐」といった花言葉もあり、贈り物にもぴったりな花です。


「風に揺れるベルの声」

駅前の花屋で、彼女はサンダーソニアの花束をじっと見つめていた。

「珍しいお花ですね。ベルみたいな形で、可愛い」

花屋の若い店主が、にこやかに声をかけた。

「そうですね……なんだか、誰かに話しかけてるみたい」

「ええ。サンダーソニアの花言葉は『愛嬌』なんですよ。まるで人懐っこい笑顔みたいな花なんです」

彼女は少しだけ口元を緩めて、花に視線を戻した。
今日は彼の命日だった。

名前は航平。大学時代から付き合い始めて、就職後も遠距離で交際を続けていた。穏やかで、朗らかで、時にちょっとお調子者。でもいつも、彼の笑顔に救われてきた。

「愛嬌……あの人に、ぴったり」

ぽつりとつぶやくと、花屋の青年がふっと笑った。

「贈り物ですか?」

彼女は黙って頷き、財布を取り出した。

彼の眠る丘の上の墓地に着くと、春の風がサンダーソニアの小さな花を揺らした。まるで、彼の声が風にのって届いてくるような気がした。

「ねぇ、久しぶり。元気にしてた? 私はね、まだちょっとだけ泣いちゃうけど、ちゃんと生きてるよ」

墓石に手を置き、彼女はそっとサンダーソニアを添えた。オレンジ色の小さな花が陽の光にきらめいて、まるで彼の笑顔がそこに咲いたようだった。

彼と過ごした日々は、華やかでも劇的でもなかった。だけど、彼の言葉や仕草の一つひとつが、今も心のどこかで灯り続けている。

「あなたが笑ってくれるだけで、どんな日も明るくなったよ。まるでこの花みたいに」

風が吹いた。サンダーソニアの花が揺れる。まるで彼が「よく来たね」と微笑んでいるようだった。

彼女はふっと笑った。

「……うん、また来るね。今度はもっとたくさん話すから」

帰り道、彼女は足取り軽く坂道を下った。花屋の前を通ると、店主が手を振った。

「お花、喜んでくれましたか?」

「ええ、とっても」

日常に戻る音がする。車の音、人の声、風のささやき。そのすべてが、どこか愛おしかった。
そして、心のどこかに、オレンジ色の花が咲いていた。

それは、もう逢えない誰かがくれた、確かであたたかい「愛嬌」の記憶だった。