10月18日の誕生花「ベゴニア」

「ベゴニア」

基本情報

  • 科名・属名:シュウカイドウ科(Begoniaceae)ベゴニア属
  • 学名Begonia
  • 原産地:熱帯・亜熱帯地域(南アメリカ、アフリカ、アジアなど)
  • 開花期:春〜秋(種類によっては周年開花)
  • 花色:赤、ピンク、白、オレンジ、黄色など多彩
  • 種類:世界に約1500種以上
    → 鑑賞用としては「根茎性ベゴニア」「球根性ベゴニア」「木立性ベゴニア」などが代表的。

ベゴニアについて

特徴

  1. 左右非対称の葉
    • ベゴニアの葉は、片側が大きくもう片側が小さいという“非対称”な形が特徴です。
    • これは他の植物にはあまり見られない独特の姿で、ベゴニアの個性を際立たせています。
  2. 光沢のある美しい葉
    • 花だけでなく葉の模様や質感も美しく、「葉を楽しむ植物」としても人気があります。
    • 斑入りやベルベット調の葉など、観葉植物としても高く評価されています。
  3. 湿度と明るさを好む
    • 強い日差しや乾燥を嫌い、明るい半日陰でよく育ちます。
    • 高温多湿な日本の気候にも比較的よく適応します。
  4. 花の構造
    • 雄花と雌花が同じ株に咲く「雌雄同株」の植物。
    • 花弁が重なり合うように咲く姿が愛らしく、長い期間咲き続けるのも魅力です。

花言葉:「片思い」

由来

ベゴニアの花言葉はいくつかありますが、
その中でも「片思い(片想い)」という言葉は、とても象徴的です。

由来①:左右非対称の葉

ベゴニアの葉は、どれも左右が不均等で、完全な対称にはなりません。
この「どちらかが少し欠けているような形」が、
“一方だけが想う気持ち”=片思い を連想させることから、この花言葉が生まれました。

― 「心のバランスが少し傾いている」
― 「相手に届かない想い」

そんな繊細な感情を映し出すような葉の形です。

由来②:静かに咲く姿

ベゴニアは派手に自己主張せず、
半日陰や木漏れ日の下で静かに咲く花。
その控えめで慎ましい姿が、
「想いを胸に秘める恋心」を象徴しているとも言われます。


「ベゴニアの葉が傾くとき」

放課後の教室に、夕日が斜めに差し込んでいた。
 窓際の机の上、小さな鉢植えのベゴニアが光を受けて、静かに揺れている。

 それを持ってきたのは、春の始まりの日だった。
 理科準備室の隅でしおれかけていた鉢を見つけたとき、咲良は思わず手を伸ばしていた。
 「もう少しだけ、咲かせてみたいな」
 そんな小さな気まぐれから始まった。

 隣の席の佐久間くんは、いつも静かで、でも誰よりも丁寧にノートを取る人だった。
 授業が終わると、彼は決まって窓の外を見ながらペンを指先で回す。
 咲良はその姿を横目で見るたび、胸の奥が少しだけざわついた。

 ベゴニアは、すぐに新しい葉を伸ばした。
 ただ、その葉はいつも少し傾いていた。
 左が小さく、右が大きい。
 どれほど陽を浴びても、完全な形にはならない。

 「不思議だよね」
 ある日、咲良がつぶやくと、佐久間くんが目を上げた。
 「何が?」
 「この葉。いつも左右で違うの。まるで……心のバランスが、ちょっと傾いてるみたい」
 彼は笑った。
 「人間もそうじゃない? 完璧に真っ直ぐな人なんていないよ」
 その言葉に、咲良はうつむいた。
 ――ああ、そうだね。
 でも、その傾きが、いつも同じ方向を向いているのは、私のほうなんだ。

 次の週、ベゴニアに花が咲いた。
 淡いピンクの花弁が、光に透けるように開いていた。
 誰にも気づかれず、誰にも見せびらかさない。
 それでも確かにそこに咲いていた。

 放課後、佐久間くんが鉢を覗き込んで「きれいだね」と言った。
 咲良の胸が跳ねた。
 「世話してたの、君だったんだ」
 「うん……でも、ただ水をあげてただけ」
 「それでも十分だよ。きっと、君のことがわかるんだと思う」

 その言葉を聞いた瞬間、咲良は何かを言いかけて、やめた。
 もし口にしたら、すべてが壊れてしまいそうで。

 窓から差し込む光の中、ベゴニアの葉が小さく揺れた。
 左右で少し傾いた葉。
 それはまるで、想いの天秤がどちらか一方に傾いているようだった。
 「届かなくても、いいのかもしれない」
 咲良はつぶやいた。
 「それでも、想っている時間があるなら」

 その日、佐久間くんは最後に振り向いて笑った。
 「花、枯らさないようにね」
 彼の姿が教室のドアの向こうに消える。
 残された夕日が、鉢を赤く染めた。

 ベゴニアの葉が、また少し傾いた。
 けれど咲良には、それがまるで心の形のように見えた。
 不完全だからこそ、美しい。
 届かない想いでも、確かにここにある。

 静かに咲く花のように――。

9月10日の誕生花「シュウカイドウ」

「シュウカイドウ」

基本情報

  • 和名:シュウカイドウ(秋海棠)
  • 学名Begonia grandis
  • 英名:Hardy begonia
  • 分類:シュウカイドウ科(ベゴニア科)・シュウカイドウ属
  • 原産地:中国南部
  • 開花期:7月下旬~10月中旬(夏の終わりから秋にかけて)
  • 生育環境:半日陰を好み、湿り気のある場所でよく育つ多年草。

シュウカイドウについて

特徴

  • 江戸時代初期に中国から渡来し、観賞用として広まった歴史を持つ。
  • 草丈は30〜60cm程度。ハート形の葉を持ち、裏は赤みを帯びる。
  • 花は淡い紅色で、下垂するように咲く姿が特徴的。
  • 花弁のように見えるのは萼片で、雄花と雌花が同じ株に咲く。
  • 見た目は儚げでありながら、球根やむかごで増え、冬を越してまた芽吹く強さを持っている。

花言葉:「片思い」

由来

  • 左右非対称の葉
    シュウカイドウの葉は左右対称ではなく、必ず片側が大きく、もう一方が小さい。
    → そのアンバランスな姿が「一方だけが大きい=一方通行の思い」を連想させた。
  • うつむいて咲く花姿
    鮮やかな色を持ちながら、花は下を向いて控えめに咲く。
    → 「想いを伝えられず胸に秘めている」姿になぞらえられた。

このように、シュウカイドウの「形の片寄り」と「うつむく控えめな花姿」が組み合わさり、花言葉「片思い」が生まれたといわれています。


秋海棠 ―片思いの庭―

古い寺の裏庭に、ひっそりとした小径がある。夏の終わりから秋にかけて、そこには淡い紅色の花が揺れていた。シュウカイドウ――秋海棠。参拝客の目に触れることは少ないが、私は毎年欠かさずその小径を訪れていた。

 きっかけは二年前。私は絵を描くための題材を探して寺を歩いていた。蝉時雨の中で、ふと視界に飛び込んできたのは、うつむくように咲く可憐な花。葉は左右に広がっていたが、よく見ると形が微妙に片寄っていた。私は不思議に思い、傍らにいた年配の僧に尋ねた。

 彼は微笑んで答えた。
 「この花には『片思い』という花言葉があるのです」

 そう言って、静かに由来を語ってくれた。

左右非対称の葉
シュウカイドウの葉は左右対称ではなく、必ず片側が大きく、もう一方が小さい。
→ そのアンバランスな姿が「一方だけが大きい=一方通行の思い」を連想させた。

うつむいて咲く花姿
鮮やかな色を持ちながら、花は下を向いて控えめに咲く。
→ 「想いを伝えられず胸に秘めている」姿になぞらえられた。

このように、シュウカイドウの「形の片寄り」と「うつむく控えめな花姿」が組み合わさり、花言葉「片思い」が生まれたといわれています。

 その説明を聞いたとき、胸の奥に小さな痛みが走った。なぜなら、私自身がまさに片思いの只中にいたからだ。

 相手は大学の同級生、詩織。明るくて、誰とでも自然に会話できる彼女に、私はずっと惹かれていた。しかし言葉にする勇気が持てないまま、季節だけが過ぎていった。隣で笑ってくれる時間が愛おしすぎて、壊してしまうのが怖かったのだ。

 以来、私はこの花を見に来るたびに、詩織の笑顔を思い出した。左右非対称の葉を指でなぞると、自分の心もまたどちらかに傾きすぎていることを突きつけられる。花がうつむく姿は、告げられぬ気持ちを抱えた自分のようでもあった。

 秋が深まる頃、私は決意した。シュウカイドウの花が枯れてしまう前に、気持ちを伝えよう。花が自ら咲くことをやめないように、私も想いを閉じ込めたままではいられない。

 その日、夕暮れのキャンパスで詩織を呼び止めた。言葉は震えていたが、なんとか告げた。彼女は少し驚いた顔をしたあと、やさしく微笑んだ。

 「……ありがとう。でも、ごめんね」

 その瞬間、心に冷たい風が吹き抜けた。けれども不思議なことに、涙は出なかった。むしろ胸の奥に、静かな温かさが残った。伝えられたこと自体が、私にとっては救いだったのだ。

 あれから一年。再び寺の裏庭に来ると、シュウカイドウは変わらず咲いていた。花はやはりうつむき、葉は左右に傾いている。けれども私の目に映るその姿は、以前よりも誇らしげだった。片思いは報われなかったが、想いを伝えたことによって、私は少しだけ強くなれたのだ。

 風に揺れる花に、私はそっと呟いた。
 「ありがとう。来年も、また会おう」

3月7日の誕生花「ラッパズイセン」

「ラッパズイセン」

Erika VargaによるPixabayからの画像

ラッパズイセン(喇叭水仙、学名:Narcissus pseudonarcissus)は、ヒガンバナ科スイセン属の多年草で、春に鮮やかな黄色や白の花を咲かせます。名前の通り、中心部分がラッパのような形をしているのが特徴です。

ラッパズイセンについて

Stefan SchweihoferによるPixabayからの画像

科名:ヒガンバナ科/スイセン属
原産地:西ヨーロッパ
開花時期:3月~4月(春の訪れを告げる花)
花の色:黄色、白、オレンジなど
香り:ほんのり甘く爽やか

神話と由来

スイセン属の花はギリシャ神話の美少年ナルキッソス(ナルシス)にちなんで名付けられました。彼は泉に映る自分の姿に恋をし、そのままスイセンになったと伝えられています。この神話から、スイセン全般の花言葉には「自己愛」「うぬぼれ」といった意味も含まれます。

贈り物としてのラッパズイセン

「片思い」の花言葉を持つため、恋心を秘めたまま贈るのにぴったりです。ただし、相手が花言葉を知っている場合は、意味を考えて渡したほうがいいかもしれません。明るい色合いのため、春の訪れを祝う花としてプレゼントするのも素敵です。

ラッパズイセンは春を象徴する美しい花でありながら、少し切ない花言葉を持つところが魅力的ですね。


花言葉:「片思い」

Annette MeyerによるPixabayからの画像

ラッパズイセンの花言葉には「片思い」「報われぬ愛」「尊敬」などがあります。
特に「片思い」という花言葉は、ラッパズイセンのうつむくような咲き方や、自己愛の象徴とされるスイセンの一種であることに由来するといわれています。


「ラッパズイセンの咲くころに」

Manfred RichterによるPixabayからの画像

春の訪れを告げるように、公園の片隅でラッパズイセンが咲いていた。黄色い花弁が風に揺れ、まるで静かに囁き合っているようだった。

「ラッパズイセンの花言葉は『片思い』なんだって」

彼女はそう言って、小さな花をそっと撫でた。

「だから、これは私の気持ち」

隣に立つ僕は、彼女の言葉に息をのんだ。

──遡ること半年、僕と彼女は大学の図書館で知り合った。彼女は僕より一つ年下で、文学が好きだった。よく読んでいる本について語り合った。僕が気に入っていた海外文学を彼女も読み、感想を聞かせてくれるのが嬉しかった。彼女の好きな詩を僕が真似して書いてみたこともある。

ただ、それ以上の関係にはならなかった。彼女が僕に好意を抱いていることには、なんとなく気づいていた。でも、僕にはすでに恋人がいた。

彼女の気持ちをはっきりと知ってしまったら、何かが壊れる気がして、曖昧な距離を保っていた。彼女もそれを分かっているようで、決して踏み込んでこようとはしなかった。

そして、今日。

彼女はラッパズイセンを指さしながら、笑っていた。

「片思いって、ちょっと切ないね。でも、こうやって花になって残るなら、悪くないかも」

僕は何も言えなかった。

「もうすぐ卒業だね」

「うん」

「きっと、これが最後になると思う。だから、言葉にしておこうと思ったの」

「……ありがとう」

「ふふ、やっぱり優しいね。でも、大丈夫。言いたかっただけだから」

彼女はくるりと背を向け、公園の出口へ向かって歩き出した。春風に乗って、彼女の髪がふわりと揺れる。

僕は、その背中をただ見つめることしかできなかった。

地面に咲くラッパズイセンが、静かに揺れていた。