「白いバラ」

基本情報
- バラ科バラ属の多年生植物
- 開花期:春〜秋(品種により四季咲きも多い)
- 色は純白からアイボリーホワイト、わずかに緑がかった白など多様
- 香りは強香から微香まで品種差が大きい
- 切り花としてウェディング・贈り物で最も人気のある色のひとつ
白いバラについて

特徴
- 清楚で透明感のある花色が特徴
- 花びらの重なりが美しく、上品でクラシックな印象を与える
- 花持ちのよい品種が多く、ブーケやアレンジに使われやすい
- 純白であるため、他の色と組み合わせても調和しやすい
- 初心者でも育てやすい強健種から、手入れが必要な高級品種まで幅広い
花言葉:「無邪気」

由来
- **白という色が象徴する“純潔”“清らかさ”**から、汚れのない心をイメージしたとされる。
- 白いバラは、赤いバラのような情熱や黄色のバラのような陽気さよりも、
飾らない気持ち・ささやかな喜び・子どものような真っ直ぐさを連想させた。 - また、古くは白いバラが「純粋な愛」「真心」の象徴として扱われ、
そのイメージが派生して、
“無邪気な想い” “裏表のない気持ち” といった意味に結びついた。 - 結婚式や誕生祝いで白いバラがよく使われる文化的背景も、
新しい始まりを前にした“まっさらな心” を表す象徴として花言葉に影響を与えている。
「白いバラのはじまり」

春の光が、薄いレースのカーテンをやわらかく透かしていた。
葵はその光の中、テーブルの上に置かれた一輪の白いバラを見つめていた。
花びらは雪のように透き通っていて、指先を近づけるとひんやりとした気配が伝わる。
まるで何かを語りかけるように、静かに、凛として咲いていた。
――「純粋なものは、強いのよ」
ふいに、母の声を思い出す。
小さい頃、誕生日のたびに白いバラを飾ってくれた母。
「無邪気でいてくれるだけでうれしい」と笑っていた、その笑顔。
そんな母が亡くなって一年が経つ。
葵は今年も誕生日を迎えたけれど、この花を買うまで、白いバラを見ることができなかった。

母の記憶があまりに鮮やかで、触れれば壊れてしまいそうで――。
けれど今日は、どうしてもこの花に会いたかった。
窓を開けると、春の風がそっと部屋に流れ込んだ。
白い花びらがゆらぎ、光を受けてやわらかく輝く。
「ねえ、お母さん」
葵は小さな声でつぶやいた。
「私、あの日みたいに素直になれるかな。無邪気で……なんて、もう難しい気がする」
仕事に追われ、気づけば眉間にしわを寄せる癖までついた。
誰かに甘えることも、弱音を吐くことも、いつの間にか苦手になっていた。
――だけど。
白いバラは、何も責めるような光を持っていなかった。
ただそこに、美しく、まっさらな姿で咲いている。

“無邪気な想い”
“裏表のない気持ち”
花言葉の由来を思う。
赤いバラの情熱も、黄色いバラの陽気さも持たず、ただ真っ直ぐで清らかであること。
飾らない気持ちそのものを象徴する白。
「……始めてもいい、ってこと?」
心のどこかで、そんな声が生まれた。
新しい自分。
誰かに向ける素直な想い。
あるいは、誰かをもう一度信じる勇気。
白いバラは、まるで「うん」と頷くように静かに揺れた。
そのとき、玄関のチャイムが鳴る。
驚いてドアを開けると、友人の亮が立っていた。
手には、小さな紙袋。
「誕生日でしょ。これ、渡しそびれるとこだった」
袋の中には、白いバラの花束。
葵は息を呑んだ。

「え……なんで、白いバラを?」
「なんとなく。葵には、この色が合う気がして」
胸の奥がじん、と熱を帯びる。
母以外の誰かから白いバラをもらったのは、初めてだった。
亮は少し照れたように笑った。
「最近、頑張りすぎだろ? だから……真っさらな気持ちで、また笑えるといいなって」
その言葉に、瞳の奥がふっと熱くなる。
白いバラの花言葉が、そっと心に降りてきた。
――無邪気。
それは、子どものように戻ることではなく、
ただ、自分の気持ちに正直でいることなのかもしれない。
「ありがとう、亮」
声が震えた。
けれど、今の自分を飾る必要はなかった。
白いバラは、静かに光を映しながら咲いている。
まっさらな始まりを、やさしく告げるように。