2月16日の誕生花「ゲッケイジュ」

「ゲッケイジュ」

基本情報

  • 学名:Laurus nobilis
  • 科名:クスノキ科
  • 常緑高木
  • 原産地:地中海沿岸地域
  • 樹高:5〜10mほどに成長
  • 開花期:4〜5月
  • 利用:香辛料(ローリエ)、観賞樹、記念樹など

ゲッケイジュについて

特徴

  • 一年を通して濃い緑色の葉を保つ常緑樹
  • 葉には強い芳香があり、乾燥させると香辛料として使われる
  • 小さく控えめな淡黄色の花を咲かせる
  • 丈夫で剪定にも強く、庭木や街路樹としても親しまれている
  • 成長はゆるやかで、長寿な木として知られる


花言葉:「栄光」

由来

  • 古代ギリシャ・ローマにおいて、勝者や英雄に月桂冠が授けられていたことから
  • オリンピックや凱旋式で、栄誉と勝利の象徴として用いられてきた歴史に基づく
  • 常緑で枯れにくい性質が、「不滅の名誉」や「永続する栄光」を連想させたため
  • 努力の末に得られる成功や名声を象徴する木と考えられたことから
  • 葉を冠として頭に戴く行為が、「選ばれし者の証」として認識されてきたため


「月桂の冠は、静かに光る」

 春の午後、図書館の裏手にある小さな中庭で、私は一本の木の前に立っていた。
 背はそれほど高くない。けれど葉は濃く、艶やかで、冬を越えた痕跡をほとんど感じさせない。ゲッケイジュ――月桂樹。名前を知ったのは、ずっと昔、歴史の教科書の中だった。

 英雄の頭に載せられる冠。
 勝者にのみ許される栄光の証。

 そうした言葉と結びついた木を、私はこれまで現実の風景として意識したことがなかった。けれど今、その葉の一枚一枚を眺めていると、不思議と胸の奥が静かにざわめいた。

 私は、勝者ではなかった。
 誰かに称えられるような成果も、目に見える勲章もない。人生を振り返ってみても、劇的な場面より、失敗や躊躇のほうが思い浮かぶ。あのとき、別の選択をしていれば。あの一歩を踏み出せていれば。そんな「もしも」が、いくつも重なっている。

 それでも、生きてきた。

 葉を指で軽く撫でると、ほのかな香りが立ち上った。鋭さはない。けれど、確かにそこに在る香り。乾いた空気の中でも、失われていない気配だった。

 月桂樹は、常緑だという。
 季節が巡っても、葉を落とさず、色を失わない。

 その事実を思ったとき、私はふと考えた。
 栄光とは、いったい何なのだろう、と。

 古代ギリシャやローマでは、勝者や英雄に月桂冠が授けられた。競技に勝ち、戦いを制し、人々の前に立った者にのみ許される冠。そこには確かに、他者よりも優れているという明確な意味があったのだろう。

 けれど同時に、その冠は、努力の積み重ねの結果でもあったはずだ。
 誰にも見られない場所での鍛錬。失敗を重ねる日々。諦めそうになりながらも続けた時間。そのすべてを束ねる象徴として、葉は頭上に置かれた。

 栄光とは、瞬間の輝きだけではない。
 そこへ至るまでの道のりごと、抱きしめるための言葉なのかもしれない。

 私はベンチに腰を下ろし、しばらく月桂樹を見上げた。
 葉は風に揺れながらも、決して散らない。派手さはないが、確かな存在感がある。

 思い出したのは、若い頃の自分だった。
 何かになりたいと願い、何かを成し遂げたいと焦っていた頃。結果を急ぎ、評価を欲しがり、他人と比べては自分を小さく感じていた。あの頃の私は、きっと月桂冠の輝きだけを見ていたのだ。

 冠を戴く行為が、「選ばれし者の証」とされてきた理由も、今なら少し分かる気がする。
 それは、生き方を選び続けた者への承認だったのではないか。簡単な道ではなく、自分が信じた道を歩み続けたことへの、静かな賛辞。

 成功や名声は、分かりやすい形をしている。
 けれど、それだけが栄光ではない。

 続けること。
 折れずにいること。
 誰に見られなくても、自分の歩幅で前に進むこと。

 月桂樹が枯れにくいのは、特別な主張をしないからかもしれない。ただ淡々と、季節を受け入れ、根を張り、葉を保ち続ける。その在り方そのものが、長い時間を生き抜く知恵なのだろう。

 私は立ち上がり、もう一度木を見た。
 もし冠を作るとしたら、きっとこの葉は、柔らかく頭を包むだろう。重さよりも、香りと感触を残して。

 栄光とは、誰かに与えられるものではない。
 振り返ったとき、自分が歩いてきた道を、否定せずに見つめられること。そのとき初めて、静かに頭上に載るものなのだ。

 月桂樹は、今日も変わらずそこに立っている。
 称賛も、喝采も求めずに。

 それでも、その緑は確かに語っていた。
 生き抜いた時間そのものが、すでに一つの栄光なのだと。

 私はその言葉を、胸の奥にそっと置き、図書館へ戻った。
 肩に何かを背負ったような重さはない。けれど、確かな温もりが残っていた。

 見えない冠が、静かにそこにあった。

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