「オーニソガラム」

基本情報
- 和名:オオアマナ(大甘菜)
- 学名:Ornithogalum umbellatum
- 科名:キジカクシ科(※分類上はヒアシンス科とされることもある)
- 原産地:地中海沿岸地域から小アジアの一部
- 開花時期:4月〜6月
- 花色:白(中心に緑の筋が入ることが多い)
- 草丈:20〜60cmほど
- 切り花・庭植えの両方で親しまれる
オーニソガラムについて

特徴
- 星形の白い花を放射状に開く、端正で清楚な花姿
- 花弁の中央に入る緑色のラインが、凛とした印象を与える
- 一つひとつの花は小さいが、集まって咲くことで静かな存在感を放つ
- 余計な装飾のない、すっきりとした形が印象的
- 光に反応して開閉する性質があり、朝に咲いて夜に閉じることもある
- 丈夫で育てやすく、環境に過剰に左右されにくい
花言葉:「純粋」

由来
- 白一色の澄んだ花色が、混じり気のない心や無垢さを連想させたため
- 星のように整った花形が、飾りのない素直な美しさとして受け取られたため
- 派手さを求めず、静かに咲く姿が、計算のない純粋な在り方と重ねられた
- 花弁に無駄がなく、均整の取れた姿が「曇りのない心」を象徴したため
- 周囲に合わせて自己主張せず、それでも確かに存在する姿が、誠実さや清らかさを感じさせたことから
「星のかたちをした静けさ」

朝の光は、思っていたよりも静かだった。
カーテン越しに差し込む白い光は、部屋の輪郭をそっとなぞるだけで、何かを主張することはない。芽衣はベッドから起き上がり、窓辺に置いた小さな鉢植えに目を向けた。
オーニソガラムが咲いている。
白い花は、昨日よりも少しだけ開いていた。星のように整った六枚の花弁。その中心には、かすかな緑の筋が走っている。派手さはない。けれど、目を逸らすことができない不思議な静けさがあった。
芽衣は、しばらくその花を眺めていた。
この部屋に引っ越してきたのは、半年前のことだ。仕事を辞め、人間関係も整理し、必要最低限の荷物だけを持って、ここへ来た。逃げたのだと言われれば否定はできない。でも、あのときの自分には、それ以外の選択肢が見えなかった。

「自分らしく生きなよ」
誰かのそんな言葉が、ずっと胸に引っかかっていた。
自分らしさとは何なのか。主張することなのか、目立つことなのか、それとも誰にも譲らない強さなのか。考えれば考えるほど、わからなくなっていった。
オーニソガラムは、何も語らない。
ただ、白いままで咲いている。
花弁には余計な装飾がなく、均整が取れている。完璧を目指したわけでも、誰かに見せるためでもない。ただ、そういう形で在ることを選んだように見えた。
芽衣は、ふと思った。
純粋とは、何かを守るために頑なになることではないのかもしれない。
何も混ぜないこと。余計な色を足さないこと。期待や評価や恐れを、無理に背負わないこと。

午前中、芽衣は近所の公園まで散歩に出かけた。
ベンチに腰を下ろし、ノートを開く。何かを書こうと思って持ってきたのに、言葉はすぐには浮かばなかった。代わりに、頭の中にはオーニソガラムの白が浮かんでいた。
星のように整った形。
けれど、それは夜空で輝く星のような強い光ではない。昼の空に溶け込む、淡い輪郭の星だ。気づく人だけが、気づく存在。
芽衣は、これまでの自分を思い返した。
誰かに合わせて言葉を選び、角が立たないように振る舞い、期待される役割を演じてきた。その結果、自分が何を望んでいるのか、わからなくなってしまった。
それでも、完全に消えてしまったわけではない。
オーニソガラムのように、目立たない場所で、ただ在り続けていた何かが、胸の奥に残っている。

午後、部屋に戻ると、光の角度が変わっていた。
花は相変わらず、静かに咲いている。周囲に合わせて自己主張はしない。それでも、確かにそこにある。
芽衣は、ようやくペンを取った。
上手く書こうとしない。誰かに読ませるつもりもない。ただ、自分のために書く。
言葉は、少しずつ流れ出した。
取り繕わない文章。評価を気にしない言葉。飾りのない、素直な感情。
純粋とは、幼いことではない。
何も知らないことでもない。
いろいろなものを知ったあとで、それでも余計なものを手放し、静かに立つこと。
曇りのない心とは、強く澄んだ意志なのだと、芽衣は思った。
夕方、花に水をやる。
オーニソガラムは、変わらず白い。昨日と同じ形で、今日も咲いている。
明日、何が変わるのかはわからない。
けれど、芽衣はもう知っていた。
自分を大きく見せなくてもいい。
声を張り上げなくてもいい。
ただ、誠実に、清らかに、そこに在ること。
星のかたちをした白い花は、そのことを、何も語らずに教えてくれていた。















































