「セリ」

基本情報
- 学名:Oenanthe javanica
- 科名/属名:セリ科/セリ属
- 分類:多年草
- 原産地:日本全土、朝鮮、中国、ロシアインド、パキスタン、東南アジア
- 開花時期:
7~8月 - 生育環境:湿地、水辺、田のあぜなど
- 旬:春(特に早春)
- 利用:食用(七草粥、和え物、鍋物など)
セリについて

特徴
- 清らかな水辺に自生し、みずみずしい香りと歯切れのよい食感をもつ
- 細く伸びた茎と、切れ込みのある明るい緑色の葉が特徴
- 白く小さな花を多数咲かせ、可憐で目立たない姿
- 強い生命力があり、地下茎で広がる
- 香味野菜として古くから日本人の食文化に根付いている
花言葉:「清廉で高潔」

由来
- 汚れた水では育たず、澄んだ環境を選んで生きる性質が、清らかな心を連想させた
- 見た目は控えめでも、凛とした香りと姿勢を保つ様子が、高潔な生き方に重ねられた
- 日常の中で人々の健康を支えてきた存在が、誠実で清廉な徳を象徴すると考えられた
「澄水(すみみず)のほとりで」

春まだ浅い頃、村の外れを流れる小川は、冬の名残を抱えながらも静かに澄んでいた。山から引かれた水は冷たく、底の小石までくっきり見える。その流れに沿って、細く柔らかな緑が揺れている。セリだった。
遥は久しぶりにその川辺に立っていた。都会での生活に疲れ、仕事を辞め、逃げるように戻ってきた故郷。ここには何も変わらないものがあると思っていたが、自分だけが変わってしまったような気がして、胸の奥がざわついていた。
祖父は生前、この川をよく手入れしていた。ゴミを拾い、流れを整え、余計なものが溜まらないようにする。「水はな、正直なんだ」と祖父は言っていた。「汚れれば、育つものも育たん。澄んでいれば、ちゃんと命が応えてくれる」

遥は子どもの頃、その言葉の意味がよく分からなかった。ただ、祖父と一緒に川に入って、足先が冷たくなるのを面白がり、摘み取ったセリの香りを嗅いで笑っていた。青く、少し苦く、鼻の奥に残る匂い。それは今でも記憶の底に、鮮やかに残っている。
都会では、結果を出すことがすべてだった。多少の不正や妥協も、「仕方がない」の一言で流される。遥もいつの間にか、それに慣れていた。違和感を覚えながらも、声を上げることはなかった。その結果、心の中に濁りが溜まっていったことに、気づかないふりをしていた。
川辺にしゃがみ込み、遥はセリに手を伸ばす。茎は細く、派手さはない。それでも、流れに逆らわず、凛と立っている。指で軽く触れると、清々しい香りが立ち上った。その瞬間、胸の奥にあった重たいものが、少しだけ和らいだ。

「ここは、変わらないね」
背後から声がして、遥は振り返った。近所に住む美代子だった。祖父が亡くなったあとも、この川を気にかけてくれている人だ。
「セリが育ってるってことは、水がまだ大丈夫だって証拠よ」と美代子は言う。「正直な植物だからね。ごまかしがきかない」
遥は小さく笑った。自分はどうだろう。ごまかしながら生きてきた自分は、どんな場所でなら、ちゃんと育てるのだろうか。
その日、遥はセリを少しだけ摘んで帰った。夕飯に、おひたしにするためだ。派手な料理ではないが、体にすっと染み込む味。口に含んだ瞬間、子どもの頃の食卓と、祖父の背中が蘇った。

翌日から、遥は毎朝川に通うようになった。水を見て、セリの様子を確かめ、ゴミがあれば拾う。誰に頼まれたわけでもない。ただ、自分の中の濁りを、少しずつ澄ませたかった。
すぐに何かが変わるわけではない。それでも、セリは今日も同じ場所で、凛とした香りを放っている。控えめで、誠実で、清らかに。
遥は思った。清廉で高潔な生き方とは、声高に正しさを主張することではないのかもしれない。澄んだ場所を選び、静かに根を張り、誰かの健康や暮らしを支えること。日常の中で、それを続けていくこと。
夕暮れの川面に光が揺れる。セリは流れに身を任せながらも、確かにそこに在り続けていた。遥は深く息を吸い、胸いっぱいにその香りを取り込む。
この場所のように、自分の心も、いつかまた澄んでいく。そう信じられるだけの静かな強さを、セリは何も言わずに教えてくれていた。





















































