「ポインセチア」

基本情報
- 学名:Euphorbia pulcherrima
- 和名:ショウジョウボク(猩々木)
- 科名:トウダイグサ科
- 原産地:メキシコの山
- 開花時期:晩秋〜冬 (12月~2月)
- 色:赤・ピンク・白・クリーム・マーブルなど
- 園芸分類:常緑低木(観葉植物として扱われることが多い)
ポインセチアについて

特徴
- 赤い部分は花ではなく「苞(ほう)葉」
┗ 葉が変化したもので、中央にある小さな黄色い部分が本当の花(杯状花)。 - 短日植物
┗ 一日の暗い時間が長くなると色づき始めるため、冬に赤く染まる。 - クリスマスを象徴する植物
┗ 冬に鮮やかな赤を見せるため、世界中でクリスマス装飾として人気。 - 温度変化に弱く、寒さでダメージを受けやすい
┗ 室内の明るい場所で管理すると長持ちしやすい。 - 樹液に毒性あり(軽度)
┗ 皮膚に付くとかぶれる場合がある。
花言葉:「私の心は燃えている」

由来
- 真っ赤に染まった苞葉が、燃える炎のように見えることから。
- クリスマスの夜に灯るキャンドルの光や、温かな情熱を象徴する色合いが重ねられたため。
- 冬の寒さの中で、ひときわ強く鮮やかな赤を放つ姿が、心の中の強い想い・燃えるような情熱を連想させた。
「冬の赤は、燃えている」

雪が降り始めたのは、午後の授業が終わるころだった。
白い粒が空から静かに舞い、冷たい町並みをゆっくりと包み込んでいく。どこか遠くの世界へ変わっていくような、不思議な気配があった。
麻衣は厚手のマフラーを首に巻き直しながら、花屋の前で足を止めた。
店先に並んでいるのは、鮮やかな赤。ポインセチアが何鉢も、黄色い花粉を抱えた小さな花を中心にして、燃えるような苞葉を広げている。
――私の心は燃えている。

花言葉を思い出したとたん、胸の奥がじんと熱くなった。
昔から、冬が苦手だった。
学校の帰り道は冷えて孤独で、家に帰っても家族の温度は薄く、どこにも“自分の居場所”を見つけられなかった。
だけど、去年の冬だけは違った。
毎日すれ違うたびに笑いかけてくれた人がいた。
「寒いね」と言ってココアを買ってくれたり、「帰り一緒に歩こっか」と声をかけてくれたり。
特別な言葉はなかったけれど、隣にいるだけで世界が温かくなるような、そんな存在だった。
――好きです。

その一言だけが言えなかった。
言ってしまえば、何かが壊れそうで。
伝えなければ、何も始まらないのに。
「ポインセチア、今日すごくきれいですよ」
声に振り向くと、花屋の店員が柔らかく微笑んでいた。
麻衣は思わず赤い苞葉を見つめる。
真っ赤に色づいた葉は、炎そのもののようだった。
冷たい空気を切り裂くように、凛として美しく輝いていた。
まるで、冬の中でたったひとつ灯る、小さな勇気の火。
――あの花言葉は、本当なのかもしれない。
クリスマスの夜、誰かの心にともるキャンドル。
離れていても、凍える季節の真ん中で、静かに燃え続ける想い。
そして、冬の寒さにも負けず、ひときわ鮮やかに赤を放つ姿は、まるで「諦めるな」と背中を押してくれるようだった。
麻衣は手袋を外し、ポインセチアの鉢にそっと触れた。
その瞬間、心のどこかで固く凍っていたものが、かすかに溶けた気がした。

――もう逃げない。
彼に伝えたい言葉は、ずっと胸の中にあった。
暖炉の火みたいに、じわじわと消えずに残っていた。
言えなかったのは、怖かったからだ。
だけど、恐れよりも大切な気持ちが、今は確かに燃えている。
「これ、ください」
麻衣は一鉢のポインセチアを選んだ。
赤い苞葉が、まるで「行ってこい」と囁くように揺れていた。
店を出ると、雪はさっきよりも強く降っていた。それでも、手に抱えた鉢は驚くほど温かく感じた。
家とは逆の道。
麻衣はゆっくりと歩き出す。
凍てつく風が頬に当たる。それでも足取りは軽かった。
――私の心は、燃えている。
その言葉を抱きしめるように、彼の家へと歩みを進めた。
冬の町は白く、冷たく、静けさに満ちている。
けれど、真っ赤なポインセチアだけが、雪の中でひときわ強く灯っていた。
まるで、麻衣の胸の炎を映すように。










































