「ハルジオン」
🌼 ハルジオンの基本情報
和名 :ハルジオン(春紫苑)
学名 :Erigeron philadelphicus
英名 :Philadelphia fleabane
分類 :キク科 ムカシヨモギ属
原産地 :北アメリカ
開花時期 :4月~6月頃(春〜初夏)
花の色 :白、薄ピンク、時に淡紫色
ハルジオンについて
🌿 ハルジオンの特徴
姿 :道端や空き地など、比較的どこでも見られる野草で、高さは30〜80cmほどに成長します。
花 :キク科特有の小さな花が集まった頭状花(とうじょうか)で、細く糸のような花びらが特徴的。似た花に「ヒメジョオン」がありますが、ハルジオンはつぼみのときに下を向くのが特徴です。
葉 :茎を抱くようにつく(「茎を抱く葉」がハルジオンの見分けポイント)
花言葉:「追想の愛」
ハルジオンの花言葉「追想の愛」は、淡く可憐な見た目から「過去の愛を静かに思い出す」といったイメージが由来です。控えめに咲く姿が、淡い記憶や失われた恋をそっと思い出させることから、このようなロマンチックでちょっと切ない花言葉がつけられています。
「ハルジオンの手紙」
風がやわらかく吹き抜ける午後、駅前の小さな公園に、ユウはひとりで腰を下ろしていた。 目の前には、季節外れのハルジオンがひとつ、足元で揺れている。
「まだ咲いてるんだね、君」
そう独りごちて、ユウはポケットから一通の手紙を取り出した。黄ばんだ封筒には、少しだけ滲んだインクで、たったひとつの名前が書かれている。
――紗季へ
五年前、この公園で最後に会った日。春の陽射しの中、彼女は笑ってこう言った。
「ユウくんはいつもハルジオンみたい。目立たないけど、優しくて、ふっと心に残るの」
照れくさくて返事もできず、ただ笑ってごまかしたあの日。 まさかそれが最後になるなんて思いもしなかった。
紗季は突然、遠くの町へ引っ越してしまった。親の仕事、家庭の事情――何もかもが急で、置いてけぼりにされたような気持ちだった。 そのあとに届いたのが、この手紙だった。
「ごめんね、何も言わずに行ってしまって。私、ユウくんに伝えたいことがいっぱいあったの。でも、言葉にできなかった。 だから、いつかちゃんと伝えるために、この手紙を預けておきます。いつかまた、あの公園で会えたときに読んでほしい。 その日が来るまで、そっと大事にしまっておいてね」
読みたい気持ちはあった。けれど、それ以上に「また会える」と信じたくて、ずっと封を切れずにいた。
だが、先日ふと耳にした彼女の噂。 「数年前に、病気で亡くなったらしいよ」と。
ユウはその場で立ち尽くした。目の前がぐらりと揺れた。 あの日の笑顔が、声が、すべて胸の奥で弾けて、涙が止まらなかった。
――もう、彼女は戻ってこない。
そう思ったとき、ようやく手紙の封を開ける決心がついた。
指先でゆっくりと封を破る。便箋に並んだ文字は、やわらかく、どこまでも紗季らしかった。
『ユウくんへ
春になると、あの公園のハルジオンが思い浮かびます。 私たちの時間は短かったけれど、あなたと過ごした日々は、私にとって宝物でした。
もし、これを読んでくれているなら、それはきっと、もう会えないということなんだと思う。
ごめんね、さよならも言えずに。
でも、私の心は、ずっとあなたと一緒でした。
ハルジオンの花言葉、知ってる? 「追想の愛」っていうんだって。 私の想い、いつか伝わるといいな。
ありがとう、ユウくん。 あなたに出会えてよかった。
紗季』
読み終えたあと、ユウの目からぽろりと雫が落ちた。 白く揺れるハルジオンが、まるで彼女の代わりにそこに咲いているように思えた。
「追想の愛、か……」
ユウはそっと立ち上がり、花に手を伸ばす。だが摘まずに、ただそっとなでて微笑んだ。
過去は戻らない。けれど、想いは時間を越える。 そして、記憶の中に咲き続ける花もある。
ハルジオンは今日も、小さな風に揺れていた。