「ホテイアオイ」

基本情報
- 学名:Eichhornia crassipes
- 分類:ミズアオイ科ホテイアオイ属
- 原産地:南アメリカ(ブラジル・アマゾン流域)
- 開花期:夏(6月〜11月頃)
- 生育環境:池、沼、水田、ビオトープなどの淡水中
- 別名:ウォーターヒヤシンス、ウォーターポピー
- 草丈:10〜30cm程度(浮遊性の多年草)
ホテイアオイについて

特徴
- ぷっくりとした浮き袋状の葉柄
葉の根元がふくらんでいて、まるで「布袋様(ほていさま)」のお腹のように見えることが和名の由来。水に浮かぶことができる秘密はここにあります。 - 淡紫色の美しい花
ヒヤシンスに似た6弁の花を咲かせます。中心部の花弁には黄色の斑点があり、観賞価値が高いです。 - 急速な繁殖力
株分けによって爆発的に増える性質があり、条件が整うと水面を覆いつくすほど繁茂します。一方で、生態系への影響が懸念され、侵略的外来種として問題になることも。 - ビオトープやメダカ飼育に人気
水質浄化能力があり、水中の窒素やリンを吸収することから、観賞だけでなく環境整備にも使われます。
花言葉:「揺れる心」

「揺れる心」という花言葉は、ホテイアオイの浮遊する姿や、水面でふわふわと揺れ動く様子に由来します。
- ホテイアオイは土に根を張らず、水面に漂うように浮かんでいます。
風や水流に身を任せてゆらゆらと揺れるその様子が、気持ちの揺れや、決めかねている心情を象徴しているとされます。 - また、淡く幻想的な花の色合いも、はかなく移ろいやすい感情や、一時の恋心などを連想させることから、恋愛における「迷い」や「不安定さ」を表す言葉としても使われます。
※他の花言葉としては「恋の悲しみ」「移ろいやすい恋」など、儚さや不安定な感情をイメージさせるものが多く見られます。
「水面に咲く花」

風のない朝だった。川辺の水面は鏡のように静まり返り、その上にホテイアオイの群れが漂っていた。淡い紫の花が、まるで水面に咲いた幻のように揺れている。
「揺れてるなあ……」
そうつぶやいたのは、美琴。駅から少し離れたこの川沿いの小道を、彼女は毎朝のように歩いている。隣には、同じ大学に通う拓海の姿があった。彼は決まって、前を歩きながら時折振り返り、美琴に話しかける。
「ホテイアオイって、浮かんでるんだよね。根っこ、どこにもついてないのに」
「……うん、知ってる。風に流されるままなんだって」

二人の会話は、とりとめもなく続く。でも、美琴の胸の奥には、いつも言えない言葉が沈んでいた。春に知り合って、夏になり、こうして川沿いの道を並んで歩くようになった。でも――。
彼には、好きな人がいる。それも、美琴ではない誰かが。
だから、彼の言葉に頷きながらも、美琴の心はいつも揺れていた。言いたいことも、笑顔の裏に隠して。彼が優しくするたび、それが「友達として」だと分かっているのに、どうしても期待してしまう自分がいる。
「ホテイアオイって、見た目はきれいだけど、増えすぎると困るんだよね。流れを止めちゃうから」

拓海が言ったその言葉に、美琴は少しだけ心がざわめいた。
「……うん、わたしも同じ。気持ちが増えすぎると、止まっちゃうの」
彼が振り向いた。
「え?」
「ううん、なんでもない」
言葉を呑み込んだ。何度目だろう、この感じ。言いたいことを水面の下に沈めるたび、ホテイアオイみたいに、心がふわふわと揺れてしまう。
夕暮れの光が水面に差し込んだとき、美琴はふと立ち止まり、川のほうを見つめた。
「花言葉、知ってる? ホテイアオイの」
「え? 知らない。なに?」
「“揺れる心”だって」

「……へえ。なんか、今の俺たちにぴったりかもな」
その言葉に、美琴は一瞬心が跳ねた。けれど、拓海はきっと深い意味など込めていない。それが分かっていても、やっぱり心は揺れてしまう。
――好きだって、言えたらいいのに。
でも言えば、この距離が壊れてしまうかもしれない。そんな怖さが、美琴の言葉をまた水面の下に沈めていく。
「そろそろ行こっか。授業、遅れちゃうよ」
拓海が歩き出す。美琴もまた、それに続いた。ホテイアオイの群れは、朝の光の中でゆっくりと、流れに身を任せている。まるで、自分の心そのもののように。
風が吹いた。水面がわずかに揺れ、花々がそっと揺らいだ。まるで、誰にも言えない恋のように――。