7月22日、9月25日の誕生花「ペチュニア」

「ペチュニア」

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基本情報

  • 学名Petunia
  • 科名 / 属名:ナス科 / ペチュニア属
  • 原産地:南アメリカ中東部亜熱帯~温帯
  • 開花時期:春〜秋(3月〜11月頃)
  • 草丈:約20〜50cm(品種により異なる)
  • 花色:赤、ピンク、紫、白、黄色、青、複色など非常に豊富
  • 分類:一年草(日本では)、多年草(原産地では)

ペチュニアについて

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特徴

  • 花の形:ラッパ型で丸く開いた花弁。柔らかな印象。
  • 開花期間が長い:春から秋まで咲き続けるため、ガーデニングや鉢植えに人気。
  • 多彩な品種:八重咲き、フリンジ咲き、ミニタイプなど園芸品種が非常に多く、色や形にバリエーションが豊か。
  • 生育が旺盛:日当たりと風通しのよい場所でよく育ち、比較的育てやすい。
  • 香り:一部の品種は甘くやさしい香りをもつ。

花言葉:「心の安らぎ」

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ペチュニアの花言葉にはいくつかありますが、なかでも**「心の安らぎ」**は特に穏やかな印象を与える花姿から生まれたと考えられます。

由来のポイント:

  • 優しい花色と形
     ペチュニアはラッパ状の丸みを帯びた花で、どこか包み込むような柔らかさを感じさせます。そのため、見る人の気持ちをほっと和らげる効果があります。
  • 長く咲き続ける安心感
     春から秋まで咲き続けるその姿は、「いつもそばにいてくれる存在」のよう。変わらぬ花姿が「安定」や「心の癒やし」といった感情を連想させるのです。
  • 家庭的で親しみやすい雰囲気
     庭先やベランダ、街角の花壇など身近な場所でよく見かけることから、日常に寄り添うような花=心の安らぎを象徴する花とも言えます。

「ペチュニアの咲くベランダで」

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四階建ての古びたアパート、その二階の角部屋に、白いレースのカーテンが揺れている窓がある。窓の外には小さなベランダがあり、そこにひっそりと並ぶ鉢植え――紫や淡いピンク、クリーム色のペチュニアが風に揺れていた。

 その部屋に住むのは、七十を過ぎた一人暮らしの女性、佐伯澄子。夫を亡くしてから十年以上が経ち、子どもたちはみな遠方に住んでいる。声のない日々が続いていたが、それを寂しいと嘆くでもなく、彼女は静かに、ゆっくりと毎日を過ごしていた。

 ペチュニアの花を育て始めたのは、二年前の春。偶然通りかかった園芸店で、「初心者にも育てやすいですよ」とすすめられ、何気なく手に取ったのが始まりだった。最初は淡いピンクの一株だけだったが、季節が巡るたびに少しずつ鉢は増え、気づけばベランダの半分以上がペチュニアで埋め尽くされていた。

 ある日、隣室に若い女性が越してきた。名前は美咲。澄子より五十歳も若く、無口で、どこか傷を抱えたような雰囲気の子だった。

 「こんにちは」

 ある朝、澄子が水やりをしていると、隣の窓から不意に声がした。驚いて顔を上げると、美咲がベランダ越しに頭を下げていた。

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 「いつも、きれいだなと思って見てました。……この花、なんて名前ですか?」

 「ペチュニアよ」

 「……優しい色ですね」

 それが、ふたりの最初の会話だった。

 それから少しずつ、美咲はベランダ越しに顔を出すようになった。会話は短く、気まぐれだったが、やがて彼女の手元にも小さな鉢植えが並ぶようになった。澄子は土のこと、水の量、陽当たりについて、少しずつ伝えていった。

 「この花ね、『心の安らぎ』っていう花言葉があるのよ」

 ある夕方、日が傾くベランダで、澄子がそう話しかけると、美咲はふと目を見開いた。

 「……安らぎ、ですか」

 「そう。丸くてやわらかい形でしょう。咲き方も素直で、香りは控えめだけど、そこがまたいいの。ずっと咲いていてくれるから、ね。誰かがそばにいてくれるみたいで、落ち着くのよ」

 その言葉に、美咲はしばらく黙っていた。

 「私……、夜になると、眠れなくて。何をしてても、胸がざわざわして。だけど、ここに来てから、ベランダを覗くのが、ちょっと楽しみになってて……」

 そう呟いて、彼女は小さく笑った。澄子はそれを、風に揺れる花のように見つめていた。

 季節は夏を越え、秋風がベランダを通り抜けるようになった。ペチュニアたちはゆるやかにその数を減らしながらも、最後までけなげに花を咲かせていた。

 「来年も、咲かせましょうね」

 澄子がそう言うと、美咲はうなずいた。

 「今度は、もっとたくさん育ててみたいです」

 ふたりの間に流れる空気は、静かで温かかった。言葉は多くなくても、そこに確かに「安らぎ」があった。

 ベランダのペチュニアは、今年も変わらず咲き続けていた。

7月3日、8月15日、9月25日の誕生花「ハス」

「ハス」

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基本情報

  • 学名Nelumbo nucifera
  • 科名:ハス科
  • 原産地:熱帯~温帯アジア、オーストラリア北部(ヌシフェラ種)、北アメリカ(ルテア種)
  • 開花時期:7月~9月(夏の花)
  • 花色:ピンク、白、稀に黄色
  • 生育環境:池や沼などの水辺・浅い水中
  • 分類:多年性水生植物

ハスについて

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特徴

  • 泥の中から咲く花
     ハスは泥水の中に根を張りながらも、水面にまっすぐ茎を伸ばし、美しく大きな花を咲かせます。その姿は、汚れた環境にありながらも決して染まらず、凛とした美しさを持っています。
  • 大きな葉と花
     丸くて大きな葉が特徴的で、水を弾く様子から“ロータス効果”という撥水現象の語源にもなっています。花は直径20cmほどにまで成長することもあります。
  • 宗教や文化との深い結びつき
     仏教では非常に神聖な花とされ、仏像がハスの台座に座っている姿(蓮華座)が多く見られます。インドではヒンドゥー教や仏教の象徴でもあり、「悟り」「輪廻」「再生」の象徴です。

花言葉:「清らかな心」

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「清らかな心(Purity of Heart)」という花言葉は、ハスの生態的な特徴宗教的象徴性の両面から生まれています。

1. 泥に染まらず咲くという清らかさ

ハスは、泥沼という汚れた環境の中にあっても、美しく純白のような花を咲かせます。この姿が、人間にとっての理想的な「周囲に流されず、自分の美しさや信念を保ち続ける」というイメージと重なります。

2. 仏教での“浄化”や“悟り”の象徴

仏教では、ハスの花は“清浄”を意味する重要なシンボルです。仏陀の悟りや仏性の象徴として扱われ、人間の煩悩を超えた「清らかな心」を体現する存在とされています。

3. 朝に咲いて夕に閉じる儚さも

ハスの花は朝に開き、午後になると閉じ、数日間それを繰り返して散っていきます。その儚い美しさもまた、余計な執着を持たず、静かに咲く「清らかな心」を象徴しているのです。


「泥に咲く花」

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母の葬儀の日、奈緒は久しぶりに実家の池を訪れた。夏の陽射しが強く照りつける中、水面にはいくつもの蓮の花が静かに開いていた。濁った水の中から伸びた茎の先に、透き通るような淡いピンクの花が咲いている。その姿を見た瞬間、彼女の胸に、子どもの頃のある情景が蘇った。

 「奈緒、この花、なんて名前か知ってる?」

 小さな頃、手をつないで池のほとりを歩いたあの日。母はそう言って微笑んだ。

 「ハス、だよね?」

 「そう。泥の中から咲くんだけどね、泥に染まらないの。不思議だと思わない?」

 幼かった奈緒には、何が不思議なのか、正直よくわからなかった。ただ、母がその花をじっと見つめる横顔がとても穏やかだったことを覚えている。

 「人もね、そうありたいの。どんなに苦しい環境にいても、心は清らかでいたい。そういう意味で、この花には“清らかな心”っていう花言葉があるんだよ」

 あれから20年。奈緒はずっと都会で働き、母とは何度もすれ違った。価値観の違い、進路のことでの口論、介護の押しつけ合い――清らかな心なんて、いつの間にか忘れていた。

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 しかし、今こうしてハスの花を目の前にしてみると、不思議なことに、母の言葉がまっすぐ胸に届いた。

 母の人生は決して平坦ではなかった。若くして夫を亡くし、女手一つで奈緒を育て上げた。近所の噂、親戚の冷たい視線、貧しさ――そのすべてを母は引き受けながらも、決して誰かを恨むことなく、どこか澄んだ眼差しで生きていた。

 「泥より出でて、泥に染まらず」

 その言葉の意味が、ようやく理解できた気がした。

 池のそばにしゃがみこみ、奈緒はそっと水面に指を伸ばした。濁った水の底は見えない。でも、そこから生まれるものが、こんなにも美しいのなら――。

 「ごめんね、お母さん。もっと早くに、気づけばよかった」

 ぽろりと涙が落ち、静かに波紋が広がった。けれどその涙すら、今の彼女には清められていくような気がした。

 その日、奈緒は一輪のハスを抱えて帰路についた。自分もまた、どんな場所にいても、心のどこかに清らかさを灯していたい――そんな願いとともに。