「レモン」(檸檬)
基本情報
学名 :Citrus limon
分類 :ミカン科(Rutaceae)・ミカン属(Citrus)
原産地 :アジア、ヨーロッパ、中近東、北アメリカ、アフリカの一部
果実の特徴 :
楕円形で先端に小さな突起がある
黄色い果皮に酸味の強い果汁
ビタミンCが豊富で、風邪予防や美容に効果があるとされる
樹高 :通常2~6メートル
花の色 :白(時に外側が薄紫がかる)
開花時期 :5月中旬~6月上旬(主な開花期)、6月中旬~11月(品種によって適時、開花)
レモンについて
特徴
香り高い果実 : 爽やかな酸味と強い香りが特徴。果汁や果皮は料理、製菓、飲料、アロマオイルなどに利用される。
四季咲き性 : 温暖な気候では年に複数回開花・結実することもある。
観賞価値も高い : 光沢のある葉や美しい白い花、小さく実る黄色い果実が美しく、観葉植物としても人気がある。
花言葉:「情熱」
レモンの花言葉にはいくつかありますが、「情熱 」という言葉は特にその強い香りと鮮烈な酸味に由来します。
由来の考察:
香りと味が刺激的で印象的なこと レモンの持つ強い香りや酸味は、嗅覚や味覚を強く刺激します。この「強く訴えかける」性質が、内に秘めた熱い思い、すなわち「情熱」を連想させます。
花の清らかさと果実の力強さの対比 レモンの花は小さく白く、繊細で清楚な印象を与える一方、果実は鮮烈な色と風味を持ちます。このコントラストが、「内なる情熱」を象徴すると考えられています。
古代からの薬効や神話的イメージ 古代地中海世界では、レモンは健康・美・活力を象徴する果実とされてきました。その生命力あふれるイメージが、情熱や活力と結びついたともいわれます。
「レモンの情熱」
六月の風は、まだ夏の匂いを運んでこない。 だが、陽射しの角度が少し変わっただけで、庭のレモンの木はそれに気づく。小さな白い花を、静かに咲かせはじめた。
「ほら、咲いたよ」 祖母の庭で育てていたレモンの木を、私は何年ぶりかで見に来た。
小さな五弁の花は、思い出よりもずっと繊細だった。 けれどその香りは、一瞬であの夏を思い出させる。
——あのとき、私は東京から逃げてきた。 大学生活の息苦しさ、期待と失敗、誰にも話せない焦燥感。 祖母の家の庭にあるレモンの木の下で、ただぼうっと日を浴びていたあの頃。
「情熱っていうのよ、この花の花言葉」 祖母は言って、白い花を一輪、私の髪にそっと飾ってくれた。
「レモンが情熱? 似合わない」 私はそう笑った。 酸っぱいし、トゲがあるし。清楚でもないし。
「でもね、あの花がなかったら、あの果実はできないのよ。 最初は小さくて、だれも気にとめないのに、 やがて太陽を浴びて、あんな鮮やかな黄色になるの。 時間をかけて、自分で光を集めていくのよ」
祖母の言葉が、今ごろになって胸に刺さる。 あの頃の私は、強い香りや味に耐える余裕がなかった。 けれど、今の私は違う。情熱は、派手な炎ではない。 見えなくても、静かに続く熱のことだ。
「レモネード、飲む?」 従妹が笑いながら差し出してくれたグラスには、氷とレモンの輪切り。
一口飲むと、きりっとした酸味が舌を刺激する。 けれど不思議と、その刺激が心地よい。 冷たさの奥に、日差しのような温かさがある。
「これ、庭のやつ?」 「うん。去年、たくさん採れたから冷凍してたの」
果実は確かに情熱のかたちだ。 香りは記憶を呼び起こし、味は感情を動かす。
あの頃は知らなかった。 白い花に、こんなにも強さが宿っていたことを。
「情熱って、案外静かなのね」 私はそう呟いた。
従妹がきょとんとこちらを見る。 その視線の奥に、かつての自分がいる気がして、思わず笑ってしまった。
夕暮れ、レモンの木に残る最後の陽が差す。 小さなつぼみが、まるでこちらを見上げているようだった。
私は一輪、咲きかけの花をそっと手折り、ポケットにしまう。 香りを連れて、もう一度、自分の暮らしへ戻ろう。 あの静かな情熱を、胸に秘めて。